コラム|法制度・手続き

宗教法人の売買は禁止されているのか|宗教法人法の定めと承継手続きの流れ

Japan Temple MA 宗教法人承継支援チーム|公開日:

「宗教法人の売買は禁止されているのか」——宗教法人の取得や譲渡を検討し始めた方が、最初に確かめたくなる点です。インターネット上には「禁止されている」という説明も「禁止されていない」という説明も見つかりますが、その根拠となる条文が示されていないことは少なくありません。

この記事では、宗教法人法に何が定められているのか、運営の主体が変わるときにどのような手続きが必要になるのかを、条文と公的資料に書かれている範囲で整理します。個別の取引がどう評価されるかは、法人の実態や踏んだ手続きの内容によって異なり、所轄庁の判断が関わります。具体的な事案については専門家にご確認ください。

1. 「宗教法人の売買」という言葉が指しているもの

「宗教法人の売買」「宗教法人M&A」は実務やメディアでよく使われる言い方ですが、宗教法人法にこの言葉は出てきません。法律上の用語ではなく、慣用的な呼び方です。

そのため、同じ「売買」という言葉でも、話し手によって指している中身が違うことがあります。実務でこの言葉が使われる場面で実際に行われているのは、多くの場合、法人そのものを物として引き渡すことではなく、法人を存続させたまま、その運営を担う人が入れ替わることです。

ここで押さえておきたいのが、宗教法人には株式会社の株式にあたる制度が置かれていないという点です。株式会社であれば、株式を譲り渡すことで会社の支配が移ります。宗教法人法には、これに相当する持分や出資の定めがありません。宗教法人と株式会社・一般社団法人の違いは宗教法人と一般法人の違いで整理しています。

つまり「宗教法人の売買は禁止されているのか」という問いに答えるには、まず、その「売買」が何を指しているのかを分けて考える必要があります。以下では、宗教法人法が実際に定めている内容から順に見ていきます。

2. 宗教法人法は何を定めているか

宗教法人という制度そのものの概要は宗教法人継承の基礎知識にまとめています。ここでは、この記事の問いに関わる条文を順に見ていきます。

法人格(第4条)

宗教法人法は、宗教団体が「この法律により、法人となることができる」と定め(第4条第1項)、この法律により法人となった宗教団体を「宗教法人」と呼んでいます(同条第2項)。

「宗教団体」の定義は第2条にあります。宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体で、①礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体、②これらを包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体、の2つが挙げられています。

法人格は、この定義にあてはまる宗教団体が、法律の定める手続きを経て取得するものとして組み立てられています。

設立には所轄庁の認証が必要(第12条〜第14条)

宗教法人を設立しようとする者は、目的・名称・事務所の所在地・役員に関する事項など、第12条第1項各号に掲げる事項を記載した規則を作成し、その規則について所轄庁の認証を受けなければなりません(第12条第1項)。認証の申請の少なくとも1か月前に、信者その他の利害関係人へ規則の案の要旨を示して公告することも求められます(同条第3項)。

所轄庁は、①当該団体が宗教団体であること、②当該規則がこの法律その他の法令の規定に適合していること、③当該設立の手続が第12条の規定に従ってなされていること、の3点を審査し、これらの要件を備えていると認めたときに、その規則を認証する旨の決定をします(第14条第1項)。

所轄庁(第5条)

所轄庁は、原則として、その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事です(第5条第1項)。ただし、他の都道府県内に境内建物を備える宗教法人や、そうした法人・他の都道府県内にある宗教法人を包括する宗教法人については、文部科学大臣が所轄庁になります(同条第2項)。

代表役員と責任役員(第18条)

宗教法人には3人以上の責任役員を置き、そのうち1人を代表役員とします(第18条第1項)。代表役員は、規則に別段の定めがなければ責任役員の互選によって定められ(同条第2項)、宗教法人を代表してその事務を総理します(同条第3項)。責任役員は、規則で定めるところにより、宗教法人の事務を決定します(同条第4項)。

同条第6項は、代表役員及び責任役員が宗教法人の事務について持つ権限は、宗教上の機能に対するいかなる支配権その他の権限も含むものではない、と定めています。法人の事務を担う立場と、宗教上の立場とは、法律上は分けて扱われています。

法人格そのものの譲渡についての定めは置かれていない

宗教法人法が法人の変動として手続きを定めているのは、設立(第12条以下)、規則の変更(第26条以下)、合併(第32条以下)、解散(第43条以下)です。法人格そのものを他の者へ譲り渡すための手続きは、同法に規定されていません。

これは「売買を禁止する条文がある」という意味でも、その反対の意味でもありません。宗教法人法という法律が、法人格の移転という枠組みを用意していない、という事実です。

3. 運営の主体が変わるときの手続き

法人を存続させたまま、その事務を担う人が変わる場合、宗教法人法上の手続きとしては、責任役員・代表役員の変更と、それに伴う登記・届出が中心になります。

1. 規則の定めに従って手続きを行い、代表役員を変更する
↓
2. 変更の登記を申請する(変更が生じたときから2週間以内・第53条)
↓
3. 登記事項証明書を添えて所轄庁へ届け出る(遅滞なく・第9条)

登記(第52条・第53条)

宗教法人の登記事項には「代表権を有する者の氏名、住所及び資格」が含まれます(第52条第2項第6号)。この事項に変更が生じたときは、2週間以内に、主たる事務所の所在地において変更の登記をしなければなりません(第53条)。

なお第8条は、登記しなければならない事項について、登記により効力を生ずる事項を除き、登記の後でなければ第三者に対抗することができない、と定めています。

所轄庁への届出(第9条)

宗教法人は、登記をしたときは、遅滞なく、登記事項証明書を添えて、その旨を所轄庁に届け出なければなりません(第9条)。登記と届出は別の手続きで、登記が済めば自動的に届出がなされるわけではありません。

規則を変更する場合は「認証」(第26条)

規則そのものを変更するときは、規則で定めるところにより変更のための手続きをしたうえで、その規則の変更について所轄庁の認証を受ける必要があります(第26条第1項)。届出と認証は別の制度で、認証には審査の期間がかかります。

包括宗教団体との関係(被包括関係)を設定または廃止する規則の変更については、認証申請の少なくとも2か月前の公告(同条第2項)、相手方となる宗教団体の承認または通知(同条第3項)といった手続きが加わります。被包括・単立の違いは被包括とはで解説しています。

手続きの具体的な流れと必要書類は宗教法人の代表役員変更手続き完全ガイドで詳しく説明しています。

必要な手続きは法人ごとに変わります

同じ「引き継ぎ」でも、規則の内容・包括関係の有無・所轄庁がどこかによって、必要な手続きは変わります。Japan Temple MAでは、守秘義務確認を締結したうえで案件の詳細をお伝えし、提携行政書士とともに所轄庁への届出まで対応します。ご相談は無料です。

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4. 文化庁が示している制度上の整理

宗教法人に関する事務を所管する文化庁は、制度についての解説を公表しています。「宗教活動の継続が困難となった場合には」というページでは、宗教法人について次のように説明されています。

宗教法人は活動が継続できない状況になったとしても、宗教法人法に定める「解散」や「合併」の手続をとらない限り、法人格が残存し続けます(いわゆる不活動宗教法人)。

——文化庁「宗教活動の継続が困難となった場合には」

「不活動宗教法人」は、この説明のとおり、活動が続けられなくなった後も法人格が残っている状態を指す言い方です。文化庁は「不活動宗教法人の状況等に関する調査」を実施し、その結果を公表しています。

制度上、所轄庁と宗教法人の関係は次のように定められています。宗教法人は、毎会計年度終了後3か月以内に財産目録及び収支計算書を作成し(第25条第1項)、事務所には規則及び認証書・役員名簿・財産目録及び収支計算書などを常に備えなければなりません(同条第2項)。そして毎会計年度終了後4か月以内に、役員名簿など一定の書類の写しを所轄庁へ提出します(同条第4項)。所轄庁は、提出された書類を取り扱う場合においては、宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならないとされています(同条第5項)。

設立の際に所轄庁が規則を認証し、その後は法人が自ら運営して定められた書類を提出する——制度の組み立てはこのようになっています。

5. 個別の事案で確認されること

「どこまでが適法な承継にあたるか」は、法人ごとの事情によって変わります。実務で確認されるのは、たとえば次のような点です。

これらは、外から見ただけでは分からないものがほとんどです。同じ「宗教法人を引き継ぐ」という話でも、法人によって必要な手続きも、確認すべき点も変わります。実際に起きたトラブルの型は宗教法人売買のトラブル・失敗事例で、活動実態のない法人に固有の注意点は休眠宗教法人の承継における注意点で扱っています。

6. よくある質問

Q. 宗教法人の売買は法律で禁止されているのですか。

A. 宗教法人法には「宗教法人の売買」という文言がなく、これを直接禁止する規定も、法人格そのものを譲り渡すための手続きも置かれていません。同法が法人の変動について定めているのは、設立・規則の変更・合併・解散です。そのため、条文だけで個別の取引の当否が決まるわけではありません。実際にどう評価されるかは、法人の実態や踏んだ手続きの内容によって異なり、所轄庁の判断が関わります。具体的な事案は専門家にご確認ください。

Q. 法人格そのものを買い取ることはできますか。

A. 宗教法人法には、法人格を他の者へ譲り渡す手続きの定めがありません。また、株式会社の株式にあたる持分や出資の制度も置かれていません。実務で運営の主体が変わる場面では、規則に従って責任役員・代表役員を変更し、変更の登記(第53条)と所轄庁への届出(第9条)を行うという形がとられます。

Q. 代表役員が変わるとき、所轄庁の認証は必要ですか。

A. 代表役員の変更に伴って所轄庁に対して行うのは「届出」です(第9条)。「認証」が必要になるのは、規則そのものを変更する場合です(第26条)。届出と認証は別の手続きで、認証には審査の期間がかかります。規則の変更も同時に行う場合は、その分の期間を見込んでおく必要があります。

Q. 活動していない宗教法人を引き継ぐことはできますか。

A. 文化庁は、活動が継続できない状況になっても解散や合併の手続きをとらない限り法人格が残存し続ける状態を「いわゆる不活動宗教法人」と説明しています。また宗教法人法は、裁判所が解散を命ずることができる事由の一つとして、宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと、または1年以上にわたってその目的のための行為をしないことを挙げています(第81条第1項第2号)。活動の実態や規則との整合は法人ごとに異なるため、個別の確認が必要です。解散の手続きそのものは宗教法人の解散・廃止とはで解説しています。

7. まとめ

宗教法人法には「宗教法人の売買」という文言が無く、法人格そのものを譲り渡すための手続きも定められていません。同法が定めているのは、設立、規則の変更、合併、解散、そして役員の変更に伴う登記と所轄庁への届出です。

実務で運営の主体が変わる場面では、規則に従って役員を変更し、2週間以内に変更の登記を行い(第53条)、遅滞なく所轄庁へ届け出る(第9条)という手順を踏むことになります。規則そのものを変える場合は、これとは別に所轄庁の認証が必要です(第26条)。

そのうえで、どこまでが適法な承継にあたるかは、次のような事情によって異なります。

これらは法人ごとに違い、最終的には所轄庁の判断が関わります。ひとつの記事で「できる/できない」を決められるものではありません。具体的な法人についての判断は、専門家にご確認ください。

Japan Temple MAは、宗教法人の承継を仲介しています。

検討中の法人がどの手続きにあたるのか分からない、という段階でもご相談いただけます。

この記事の要点
  • 宗教法人法に「売買」という文言はなく、法人格を譲り渡す手続きの定めも置かれていない
  • 同法が定めるのは、設立・規則の変更・合併・解散と、役員の変更に伴う登記・届出
  • 代表役員の変更は所轄庁への「届出」、規則の変更は「認証」で、別の手続き
  • どこまでが適法な承継にあたるかは、宗教活動の実態・規則・包括関係・墓地の許可・所轄庁によって変わる
  • 最終的には所轄庁の判断が関わるため、具体的な事案は専門家に確認する

出典

※ いずれも2026-09-09に内容を確認しました。

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